水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問
2016-07-19


23(大正12)年9月1日、関東地方を襲った大地震とそれによる大火災のなかで、数多くの朝鮮人が日本の軍隊・警察、さらには日本人自警団などによって虐殺される事態が生じた。 「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」「爆弾を持って襲撃してくる」などの根拠のないデマが流れ、それを信じた自警団が避難する朝鮮人を捕まえて殺害したり、警察が保護を名目に朝鮮人を収容しながら、警察署の中で殺害したりする事件が関東地方各地で起こった。 殺された朝鮮人の数は司法省の発表では233名、朝鮮総督府の資料では832名、政治学者吉野作造(1878〜1933)の調査では2,711名とされるが、朝鮮人留学生らの「罹災同胞慰問団」の名目で行なった調査では6,415名という数字があげられている。 日本政府が朝鮮人虐殺の事実を隠すため調査を妨害したので、正確な死者数は不明だが、千名単位の死者があったことは否定できない。(18〜19頁)

 在日朝鮮人の歴史では必ず出てくる「関東大震災の朝鮮人虐殺」です。 内容はどの本を見ても大体同じで、この本もその一つです。これを読みながらいつも疑問に思うことが幾つかあります。

@ 殺された朝鮮人の数については、いろんな説があるのは分かるのですが、‘殺された’のではなく‘災害で亡くなった’朝鮮人の数を記しているものが一つもない、ということです。 大震災で亡くなった人の総数は今は10万5千人ぐらいとされており、この中には当然朝鮮人が含まれているはずです。 しかし何人の朝鮮人が災害で亡くなったのかが、分からないのです。 そして研究者はこの人数を調べようとせず、ただひたすら日本人に‘殺された’朝鮮人の数だけを調べているのです。

A 何千人もの朝鮮人が殺されたのが事実であるなら、在日朝鮮人の人口統計に出てくるはずです。 そこで大震災発生年である1923年を中心に1920年〜1925年の人口統計を探してみました。 (樋口雄一『日本の朝鮮・韓国人』同成社 2002年6月 206頁 より作成)

 年    在日朝鮮人人口  対前年比増加率(%)

1920年    30,189

1921年    38,651         28

1922年    59,722         55

1923年    80,415         35

1924年    118,152         47

1925年    129,870         10

 このように在日朝鮮人口は一貫して増加しています 。特に大震災のあった1923年の前後を見れば、数千人が殺されたはずなのに、人口が数十%の割合で増加しているのが分かります。 (ちなみに1925年の増加率が10%と低いのは、朝鮮人の日本渡航制限が始まったからです)

 つまり何千人もが虐殺されたとは、とても考えられない統計数字なのです。 これを説明する研究者がいないのは、どうしたことでしょうか?

B 朝鮮人が殺されたという話ばかりが出てきますが、朝鮮人を守ったという話が出てきません。 例えば大川常吉という警察署長は300人の朝鮮人を自警団から守り、朝鮮人たちから感謝状を贈られています。 [URL]  こういう話はもっと取り上げられたらいいと思うのですが、在日朝鮮人史の本には出てくるのを見たことがありません。

 以上、疑問点を挙げました。 こんな疑問は誰もが持つものと思っていたのですが、そうでもないみたいですねえ。


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