水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日
2016-07-12


1946年3月、10万円以上の財産をもつ資産家に財産税が課せられているが、その対象となる朝鮮人はおよそ1,000人に達していた。 ‥‥10万円は現在の金額で5千万円以上に値するといわれる。(85〜86頁)

 この時の財産税とは、敗戦直後の財政難と超インフレの対策の一つとして、戦災で財産を失わなかった富裕層から税金を取ろうとしたもので、一時的措置でした。 この財産税の課税対象者に朝鮮人が1,000人もいたとは! この事実はこれまで知りませんでした。

 私は在日朝鮮人の色んな手記を読んだり一世のお年寄りたちから話を聞いたりしてきましたが、言葉も分からず知り合いも少ない日本にカバン一つでやって来て、ただひたすら働いて故郷に仕送りして生活してきたという身の上話ばかりです。 だから在日朝鮮人は無一文から出発したといって過言ではありません。

 しかしせいぜい長くて30年、大抵は10〜20年ぐらいの間に、当時のお金で10万円(現在の価値では5000万円以上)の財産を形成し、戦災でその財産を失わなかった朝鮮人が1,000人もいたのです。 戦災で財産を失った朝鮮人も多くいたでしょうから、それも含めると何千人かの植民地人が帝国主義本国で、言葉に不自由しながらも裸一貫の無一文から始めて、これだけの財産を作ることができたということになります。 彼らには家族もいたでしょうから、朝鮮人資産家の人数はかなりの数になるでしょう。 

 戦前の日本は、朝鮮人でも誰でも法律・ルールを守ってまじめに働き、質素・倹約の生活をすればそれなりの財産を築くことが出来たということが、この本からも分かります。

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(7)―人口の急増 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(8)―戦前の強制送還者数 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(9)―ハングル投票  [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(10)―来日した朝鮮人子弟の教育 [URL]

水野・文『在日朝鮮人』(11)―尹東柱   [URL]


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