『毎日新聞』2022年3月11日付けに、「特集ワイド 祖国で死刑判決 在日韓国人家族の40年 耐え忍んだ日々、再審無罪結実」と題する長文の記事が出ました。 [URL]
有料記事ですので、関心ある方は図書館にでも行って、ご覧下さい。
「北朝鮮のスパイ」にでっち上げられて死刑判決まで受けた在日が、死後に再審無罪を勝ち取ったという記事です。 内容はおおむね納得できるのですが、ちょっと違和感を持つ部分がありましたので、それを書きたいと思います。
記事の概略は、次の通りです。
軍事独裁政権下の韓国で1981年、「北朝鮮のスパイ」として摘発され死刑判決を受けた後、約17年間投獄された大阪市生野区の在日韓国人、孫裕炯(ソンユヒョン)さん(2014年に84歳で死去)の再審無罪が1月に確定した。 孫さんの死後、裁判のやり直しを求め、闘ってきた親族の長い道のりを聞いた。
「ハルモニ(おばあちゃん)。ハラボジ(おじいちゃん)の再審無罪が確定したよ」。 韓国大法院(最高裁)が、ソウル高裁の無罪判決を支持し、検察の上告を棄却した1月27日。裁判を傍聴した韓国在住の孫(43)から連絡を受けた妻の夫辛花(プシナ)さん(91)は胸をなで下ろした。 韓国の情報機関・国家安全企画部(現・国家情報院)により、孫さんが不当逮捕・拘禁されてから40年以上。 亡くなってから約7年の歳月がたっていた。夫さんら親族は自宅で「罪が完全に消え、公的に名誉が回復されたことが一番の喜びです」と遺影を手に、かみしめるように語った。
概略は以上で、次に長文の記事となります。 その中で私が違和感を持った部分は次です。
韓国では70〜80年代、留学や出張、旅行などで母国を訪れた在日コリアンが、情報機関により「北朝鮮のスパイ」などにでっち上げられ、無実の罪で投獄される人権侵害が相次いだ。独裁色を強める朴正熙(パクチョンヒ)大統領(63〜79年)は、民主化や朝鮮半島統一を求める市民への弾圧を強め、その強権発動は全斗煥(チョンドファン)政権(80〜88年)でも続き、孫さんも「標的」にされた。
81年4月25日、孫さんは滞在中のソウルの宿舎から、安企部に令状もないままに連行された。その3日前に取引先の金融機関主催のゴルフコンペに参加するためソウルに赴いた後、姉婿の遺骨埋葬に立ち会おうと故郷の済州島に暮らす母や親族らを訪問する予定だった。だが、安企部はそれを「北朝鮮のスパイと接触し、韓国で工作活動をしようとした」という疑いに捏造(ねつぞう)したのだ。
記事では「国家安全企画部」が孫裕炯さんを「標的」にした理由が書かれていません。 当時「国家安全企画部」は韓国に滞在する在日をむやみやたらに捕まえるということはなかったはずで、何らかの理由がありました。
理由というのは、その在日が民主化運動に賛同したとか、北朝鮮を称揚する発言をしたとか、観光地でない場所の写真を撮ったとか、ホテルで女性を呼ばなかったとか‥‥そんな行動をしたことで密告されたという場合がほとんどです。 要するに北朝鮮のスパイを疑われる言動か、普通の人ならしないような行動をしている場合でした。
70〜80年代当時、多くの在日韓国人が韓国に滞在していました。 一世のお年寄りは懐かしの故郷を訪問し、また事業している中年層は商売・仕事で韓国を何度も往復し、そして若者は民族を取り戻すべく語学留学をし‥‥。
当時の彼らは、韓国が北朝鮮と対峙していて「スパイ」に極めて敏感になっており、自分がいつ何時当局に密告されるか分からないという状況を理解していました。 だから彼らは韓国に行くに当たって朝鮮総連との関係を完全に断ち切り、韓国滞在中には自分の言動に大変な注意を払う、それが普通でした。
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