豊田有恒『韓国が漢字を復活できない理由』
2013-09-15


 韓国では漢字が廃止されており、今の韓国人のほとんどが漢字を読めなくなっています。こういう状態が続くとどうなるのか関心があります。呉善花さんも書いておられましたが、今回は本棚に積読していた豊田有恒さんの『韓国が漢字を復活できない理由』(祥伝社新書 2012年7月)を取り出して、読んでみました。

 豊田さんは昔から韓国について造詣が深く、韓国語もかなりできる方です。ですからその著作はそれなりに信頼できるだろうと思ったのです。読んでみて成程と感心する所も多かったですが、これはないだろう、と思える所も多々ありました。まずは、ちょっと酷いんじゃない?と思えるところから取り上げます。

韓国は‥‥(日本語を追放するという)努力は今も続けられている。折に触れて、追放すべき日本語風の用語リストを作成したりしている。   ここに、韓国の国語審議会の国語純化分科委員会が作成したリストがある。‥リストの名称は「日本風生活用語純化集」となっている。(32頁)‥‥‥さっぱりわけのわからない単語も、リスト入りしている。〈去来先(コレソン)〉とは、なんのことだろう。とうてい日本語とは思えない。去来は、よもや俳人の向井去来ではあるまい。調べたが、なんとしても判らなかった。(45頁)

 これを読んでビックリ仰天。韓国語の「去来(コレ)」は取引のこと。従って「去来先」とは取引先の意味です。念のため辞典を調べると、小学館『朝鮮語辞典』(1993年1月)では「去来」は基本語として星印でマークされ、訳には「取り引き」と太字で表記されています。「去来先」も当然採録されており、「取り引きする相手、取引先」となっています。

 もう少し古い辞典では、角川書店『朝鮮語大辞典』(1986年2月)にも「去来」「去来先」は採録されています。

 韓国の『国語大辞典』(〓〓〓 1997.10)では、「去来先」は「去来処(コレチョ)」とし、参考として「『先』は日本語の『さき』の漢字であるが、『目的地、所、前、相手』などの意味を持つ。しかし我が国では漢字『先』は『先ず、前、初めて』の意味があるのみ。『相手、目的地』なんかの意味はない。だから『去来先、輸入先、行先地』のように日本式の意味で使われる『先』が入っている言葉を使ってはならない」と書かれています。

 韓国の去来(コレ)が取引の意味であることは、中級レベルで習いますし、辞書にも必ず載っている言葉です。こんな重要基礎単語を知らないとは‥‥!!

 これに関連してこの本の33頁の表のなかに、「純化対象用語」として「去来先(コレソン)」、これを純化した用語として「去来処(コレソ)」となっているのがあります。しかし「去来処」は「コレチョ」です。「コレソ」は「去来所」となり、取引所の意味です。例えば証券取引所は「証券去来所(チュンクォン コレソ)」です。つまり「コレチョ」と「コレソ」は、それぞれ「取引先」「取引所」と違う意味なのです。従って、この本で「去来処(コレソ)」とカタカナで読み方を書いているのは大きな間違いだということです。

 豊田さんがこんな簡単なことを知らないだけでなく、俳人の去来を持ち出してくるとは!! 本当にビックリしました。 豊田さんは「調べたが、なんとしても判らなかった」と書いていますが、本当は調べなかったということでしょう。


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